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1111HIT!
嫌い嫌いも大嫌いのウチ


「貴様、私を愚弄するのか!」
「僕は本当の事を言っただけです、皇子サマ」
「くっ…この生意気な子供だなっ!」

また始まった。
きっかけはエルトの一言らしいが、リヴェンが不利になっている。
リヴェン皇子も、エルトも確かに頭は良い。
俺はそれをよく知っている。
しかし…。

口喧嘩でエルトに勝てるものは、いない。

「ふう……」
「なんだ、何か言いたいことがあるのかっ!?」
「大人げないよ、二十歳こえてるんだよね。精神年齢が追いついてないケド、大丈夫なの?」
「!!!」

リヴェンが口を開けたまま固まってしまった。

口喧嘩で、エルトに勝てる者は、いないのだ。


「…ディズ」
「ん?ああ、皇子か。どうしたんですか?急に」
孤児院の風呂で鼻歌を歌っていた俺の所へ、リヴェンが入ってきた。
まあ、孤児院ってだけあって、人数が多いから風呂もそれなりに広い。
リヴェンが入って、邪魔ということは無い。
しかし、彼は宿に泊まっているはずだが…。
「なあディズ。話があるのだが」
「な、なんですか、急に改まって……」
いつになく、真剣な顔つきの皇子。
風呂に入るためあって、茶色い長髪も三つ編みではなく女みたいにダンゴ型に結ってある。
そこまでピッチリ決められると、皇子としての威厳と品格が出てくるな。
「エルトの嫌いなモノってなんだ」
「は」
思わず間抜けな声が出てしまった。
あの…その威厳と品格で庶民の苦手なモノを訊くのって…。
これだから、俺やエルトは彼に対してたまに敬語を使わなくなる。
何て言うか、凛々しくて気高いけれど、庶民派って感じで。
「だから、エルトの苦手なモノを訊いているのだ」
わかってるけど、訪ねてみる。
「…そんなの訊いて、どうするんだ?」
「エルトに勝ってみせるのだ」
皇子様がそんなんで良いのか。
「おい、1つ言っておくぞ」
「なんだ?」
エルトの言葉を思い出す。
ちゃぷ、と水音をたてて息を吸いこむ。
「大人げないぜ」
湯気で皇子の顔がゆがんだ。


――翌日。
相変わらず俺は朝、エルトに無理矢理…もとい、ご丁寧に術を使って起こされた。
1回には朝っぱらからリヴェンの姿があった。
セレナが申し訳なさそうに俺とエルトを見ている。
「え、えっとね。殿下が一日孤児院でお世話になるって…」
エルトの顔に黒い影ができた。
「皇子、帰りなさい。…というより、帰れ」
リヴェンはいつになく、にこやかだ。
「今、孤児院というのはアイル村にしか無い。人口の多い我らティルヴィアに取り入れようか、今検討中なのだ。未来の子供達の為にも、嫌とは言わせんぞ」
い、や、だ。
と言わんばかりの表情を俺に向けるエルト。
その顔をみて、罪悪感に押しつぶされそうな俺を見てその罪悪感に押しつぶされそうなセレナ。
何が楽しいのか笑顔の皇子。
きっと、昨日教えたエルトの嫌いなモノを実行するつもりなのだろう。
…まさか、ここまで本気にするとは…馬鹿皇子。

「洗濯するのか?私にやらせてくれ」
「食器は私が片付けておこう」
「私が布団を干してくる」
「あの玩具はあそこにしまえば良いのだな?」
働くボランティア精神有り余る皇子。
助かるわぁ、と和んでいる先生方。
「なんか…皇子めっちゃ働いてるぜ」
「…意外。もっと箱入り息子かと思った」
俺とエルトはそれを見守っている。
子供たちと地位関係なく親しむ殿下。庶民派だなあ。
ちゃっかりお菓子なんかも作って子供たちに与えている。
エルトも混ざって食している。
喧嘩はどうなったのだろうか。皇子は何がしたいんだ?

――夜。
もう風呂も入って(リヴェンにエルトに子供たち数人も一緒に)あとは寝るだけだ。
俺が腰に手を当てて牛乳を飲んでいるとエルトの「オヤジ…」のツッコミがあったすぐ後に階段を上る足音が聞こえた。
何事かと思うと、そこには…。
「ふむ、子供はもう寝る時間だな。寝るぞエルト」
「…はい?」
そこには、寝間着姿のリヴェン皇子がいた。
枕もしっかり持参している。
「寝るぞ、って。どこで」
ものすごく怪訝そうな表情で皇子に訪ねるエルト。
「そんなの一番広いお前と子供たちの部屋に決まっているだろう」
ちなみに、俺はかなり昔から孤児院にいるため一人部屋。
「なにいってるの。僕らのベッドは余ってないよ」
エルトがコイツをどうにかしてくれと横目で俺を見てくる。
き、気が重いな。
「いいから。寝るぞ」
と、皇子は言い放って、エルトを引っ張り寝室に入っていった。
「すまん、エルト」
俺は小声でそう言って、腰に手を当てた。




「何するのだ貴様っ!!」
「起こしてあげたんだけど。その言い様はないんじゃないの?」
「ほざけ…っ」
「何?もっと水浴びたい?それとも燃やしてあげようか」
早朝の喧嘩により、俺は目を覚ました。
慌てて隣の部屋に入ると、なんとまあ、びしょぬれの皇子とエルトが吼えている。
子供たちは口を開けて固まっている。
「えーっと…皇子?」
俺が声をかけるが、届かない。
「私は貴族だ!貴族は朝5時30分と共に目が覚めるように体内時計があるのだ!」
「そんなの知らないよ。そっちが床で寝るって言ったのにベッドの方が良いって言って、僕の布団に潜り込んできたのが悪いの」
「床で寝る貴族があるか!」
「言ったことと矛盾してるんだけど…」
「その上4時30分に起こすとは何用だっ!通常より1時間も早い!それに起こし方にも問題があるっ!ご老体だった場合心の蔵が止まるぞ!」
「あれ、リヴェンはご老体じゃないんだっけ」
「私は22歳だ!」
「繰り上げして、三十路じゃん」
「繰り上げるな!」
「僕よりも一回りはおじさんだよ」
「おじっ!?貴様っ…!!」
こうなると思った…。








「エルトの嫌いなモノってなんだ」
エルトの嫌いなモノ?




「あんたじゃないの?」










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1111HITおめでとうっ!水風船作品。
ラン様から「リヴェンとエルトの喧嘩」でリクエストを頂きましたv
やはり2人の喧嘩はかいていて楽しいです。
テンションが上がっていって、どんどん進むんですよね。
しかし、ストーリー内で喧嘩されると物語の進展が遅くなるから外伝で書いた方が良さそうです(涙)
リクエスト有り難う御座いましたv
これからも水風船、夢幻空ともに宜しくお願いします!





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