「そっちはいたか!」
「駄目だ、もう逃げられたか…?」
夜の城下町。思ったよりも真っ暗。
でも兵士の数は蟻の行列みたい。
さすがのあたしでもティルヴィア城は警備が厳しいわね…。
でも、このあたし。
「怪盗マロンに盗めない物はないわ!」
2章
「リヴェン、城はまだかあ?」
「全然まだだ。もうバテたのか?」
「ディズはおじいちゃんだからねえ…」
おい。
俺たちは今、ティルヴィア城とアイル村の間にある山脈にいる。
リヴェン達が山脈に山賊がいないか確かめるためにも徒歩で城に向かうと聞いて、俺も同行した。
早朝にリヴェンに頼みにいったが、そのときには既に――
「ほら、しゃきっと歩いてよディズ」
エルトはいた。
孤児院の子供たちには悪いが、先生にだけ挨拶して村を出た。
決心が揺らぎそうだったから。
セレナは神殿に用があるらしく、船でセインシグレ神殿に向かい、そこからティルヴィアへ向かうらしい。
回復役がいなくて少々厳しいが、まあ何とかなるだろう。
それにしても、この山脈は激しいな。
せめて俺にも馬があれば楽なのに。
馬にまたがっている人は強そうな熟練兵士だ。
はあ…。こんな所をひょいひょい歩けるヤツなんていないだろ…。
「お、皇子ー!!」
向こうから一人の兵士が馬で駆けてきた。
焦っている表情だ。
「どうしたのだ?」
「し、城に…城に盗賊が…!」
盗賊…?
エルトをちらりとみたが、心当たりはないようだ。
アイル村に盗賊は出ない。
逆に言えば盗まれるような物もない…。
「盗賊…まさかあいつか?」
「あいつ?」
「はい。多分あの”怪盗マロン”という人です」
か、かいとうまろん!?
「栗だな」
「栗だね」
「ああ栗だ…ってそんなことはよい!何か盗まれたのか?」
兵士はゆっくりと頷いた。
「竜王の瞳です。先代の王の冠についていた紅い宝石です」
リヴェンの背筋が急に伸びた。
「…わかった。城に着きしだい対策を練る。…ディズ、エルト!」
「え、はい?」
思わず気の抜けた返事をしてしまった。
「山賊の確認はお前達にまかせる。数人の兵士も残しておく」
え、何いってるんですか。
「私は彼らと共に先に城に戻る。警備員をしていたのなら大丈夫だろう」
何が大丈夫なんですか。
「誰か馬を一騎かしてくれ。…よし、行くぞ!」
あっという間にリヴェンはマントを翻し、駆けていった。
周りを見ると、兵士は10人にも満たない。
剣士が俺を含めて4人。
魔術師がエルトを含めて3人。
これは危ないだろ…。
しばらく歩いていると、足音が聞こえてきた。
「エルト、気をつけろ!」
「うん…」
兵士達も構える。
周りを見渡すが、足音以外は何も聞こえない。
「…ん?」
しばらくすると向こうから人影が見えた。
その人影は…普通の女性だった。
「あれ、女の人じゃん」
エルトは呆れた声を出した。
他の兵士達も構えをとく。
俺は近づいて相手を見ようとすると、逃げ出した。
「…は?」
「わー、ディズふられるの早いー」
こ、こいつ…。
しかし、逃げるのはおかしくないか?
兵士達もちょっと不思議がっている。
結局、後を追うことにした。
山賊なんて、このメンバーで討伐できる訳がないし。