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騒ぎの数分後。
謎の青年…魔族のディネイルという男により、アイル村の突然の危機は免れた。
村人達がゆっくりとだが孤児院から外に出て魔物の気配が無いことに喜び、帰宅を始めた。
セレナは怪我をした人々を得意の法術で救い、リヴェンは得意の的確な指示官として人々を速やかに家に帰らせている。
エルトは孤児院内の人間が少なくなると中に入り「お母さん」に話しかけた。
「ねえ…ディズは?一番に走ってきたと思ったんだけど」
孤児院の母は少し困ったような顔をして答える。
「それが、確かに走ってきたと聞いたのですが、アイル村の門で倒れかかっていたので2階の部屋で休んでいますよ」
エルトは不思議そうに瞬きしてわかったと呟き、2階へ上がった。

はあ…なんか疲れたな…。
と、俺がため息をついてると
「ディーズー」
「ん、ああ、エルト」
俺の部屋をエルトの顔がのぞき込んできた。
ベッドに座ってくつろいでいた俺は軽く手を振って見せた。
ついさっき目が覚めた俺は辺りを見回すと魔物の気配が無いことに気がついた。
村の警備兵をやっているんだから、気配くらいは感じ取れる。
ふわ、と風が髪をゆらした。
窓は開いていて、涼しい風が入ってくる。
いつ開けてくれたんだろう、と思った。
俺の部屋の窓は少し壊れていて、なれない人は開け閉めにさび付いた音がする。
それだけぐっすり眠っていたと言うことだろう。
魔物の死臭は無く、魔物も人間も負傷しただけで、死までは至らなかったようだ。
エルトはふう、とため息混じりに
「また直感で行動したんだね。…一人で魔物につっこんで、あっけなく負けて、門で倒れてたんでしょ?」
ずばっと正論らしい言葉を並べた声が耳に刺さった。
う…、と俺は口ごもったが、
「ああ、そうみたいだな。ボロボロにやられちまって、記憶も吹っ飛んだぜ…」
と、曖昧に答えた。
エルトはやっぱり…とつぶやいたがすぐに近づいて、俺の身体を見回した。
「それにしても、誰が治してくれたんだろうね。傷、綺麗に治ってるよ」
もっともな意見だ。
俺の身体は倒れる程の外傷はなく、今は特に痛いところもない。
俺も覚えてないけど、孤児院の先生はセレナの母親だから、先生もセレナみたいに法術が使えて、それで治してくれたんだろう。
まあ、そんなに気になる事じゃあないんだけどな。
俺が気になるのは、魔物がどうして急に現れたのか。
どうしてあれほどの数がいたのか…だ。
そこで、ふ、と疑問が浮かんだ。
「…あれ、そういえばティルヴィアの兵士が来たのか?
「何で?」
エルトは首をかしげて聞き返した。
「凄い数だったんだろ?なのに綺麗さっぱり片付いてるじゃねえか」
ああ、とエルトは呟くと、謎の青年について色々話し出した。
「…そうだったのか。なんか変な話だな。魔族って名乗るヤツが魔族が人間を襲っている時に現れて、人間を助けるなんて」
エルトはうん、と言うと、
「なんか、セレナはその高位魔族の事、見たことあるとか言ってたよ。あ、名前は確かディネイル。」
と言った。
ディネイル?
俺は頭の中から記憶を探るが、そんな人間聞いたことすらなかった。
「うーん、結構昔からセレナと一緒にいるけど、そんなヤツ見たこと無いぜ」
「…一緒にねえ。…その人も知らないって言ってたし、やっぱセレナの他人のそら似かな」
そうじゃないかなーと思ったが、俺も一度見てみたいと思った。
聞いた話によると、整った顔立ちの白い髪に赤い目だそうだ。
…真っ白な髪に、紅い瞳。

「…兎みたいなヤツだな」


「あ!ディズ!起きたの?大丈夫だった?」
俺たちが一階に戻るとセレナが駆け寄ってきた。
「ん、ああ。平気だぜ」
「…そうだよ、セレナ。ディズってば"昔からずっとセレナと一緒だ"なんて発言するほど元気あるよ」
「エルトっ!!!」
すかさず俺はエルトの言葉を遮ろうとしたが遅かった。
ったく。
変なところだけ抜き出すなっつーの。
セレナの様子をうかがうと、
「あ、あはは!わ、わわたし、リヴェン様のとこいってっくるるね!」
と、手を無意味にブンブン振って、走り去っていった。
「お、おう」
めちゃくちゃ意識されてるし…。
俺はきっ、とエルトを睨んで、
「エルト、お前今日の風呂洗い当番な」
と言ってみた。
「順番的に今日はディズです」
って、急に敬語!?
「俺、病人だし」
「俺は昔からセレナと一緒…」
「わわ!わかったよ!」
エルトの予定通り、といった余裕の笑みを見せつけられた。
はああ…


魔物が何故現れたのかは、明日の村長とティルヴィア王国の皇子側近の方々と、俺ら村の警備兵で話をすることになった。
アイル村の近状報告とかするらしい。
俺が寝てる間に、何か大変なことになったみたいだな…




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