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「……。」
「っ?ディズ!?どうしたのっ!?」
孤児院から走ってきた子供の話を聞いて頭が真っ白になった。
セレナが後ろに近寄って来たことさえ、肩に手をかけられるまで気づかなかった。
嘘だろ。
「ふざけんなよ……っ」
「あっ……」 俺はセレナの手を力強く振りほどくと、剣を持って走り出した。
後ろでリヴェンやセレナ達の声が聞こえる。
フェイを元の世界に戻すエルトの呪文も聞こえる。
そして…俺の心の何かの声が聞こえる。


何をしている?
だから走っているんだって。

ドクン

何のために?
何のため?俺は…

ドクン

俺は…。
思い出せ?

ドクン

何?記憶が。
力。俺は?

ドクンドクン


目眩がする。気持ちが悪い。
体中を何かが駆けめぐる。
嫌…俺はこの何かを知っている。
いや、何かじゃない。
俺は…









「…何…これ……」
セレナは目の前の情景に声を震わせた。
彼女とエルト、リヴェンの3人は、ディズが走り出した方向に走ってきた。
たどり着いた場所は、アイル村。
――否。魔物の巣窟となった村だった。
町は焼かれ、魔物が蠢いている。村人の姿はない。
「…確かこの村には自警団がいたな?」
リヴェンが問うと、セレナはゆっくりとうなずいた。
「その部隊が有能であるのならば、どこかに村人が集めて守っているはずだ」
その言葉にエルトは顔を上げた。
「どこかに村人が集まれるような施設はないか?」
エルトは村奥に視線をのばした。
「…孤児院。そうだ、孤児院が…危ない…」
セレナはその言葉に驚き、声を上げて足を動かした。
「そんな…お母さん!」
セレナに続き2人も走り出した。

悲鳴が聞こえる。
魔物と人間の声だ。
近くによるとクラフト孤児院の周りには魔物達が群れていた。
「お母さんっ!!」
孤児院のドアの前で魔物に抵抗している年老いた自警団の傍に、彼女の母がいた。
「セレナ…!」
エルトは孤児院の扉へ走り込むと自警団に聞いた。
「おじさん…なんで、ディズは?先に帰ってたんじゃないの……っ」
「はぁ…はぁ…。ディズは、この村の入り口で倒れていた、そうだ…。…っ今は、孤児院の、中で…休んで…いる」
ばかだなあ、と呟くと、エルトはすぐに詠唱に取りかかった。
それを邪魔する魔物にリヴェンが飛び込み、大剣を震っていく。
「地の神らの円舞曲は地響きを呼び覚まさん…マッドワルツ!」
ドアの周りの魔物をエルトの術でなぎ払う。
すかさず傷を負っている自警団と母の元へセレナは近寄りだした。
「まてセレナ!まだ周りには魔物がいるぞ!」
リヴェンが止めたときにはセレナは囲まれていた。
「詠唱は間に合わないよ…っ」
「ちっ!…はぁぁぁ!!」
リヴェンは走り出したがそれよりも先に魔物の手が動き出した。
「セレナ!!」
「おかあさ…っ」





『モドレ』





どこからか声が響いた瞬間に、魔物の動きが止まった。
耳鳴りがするほどの静けさになる。
「戻れ、というのが聞こえないのか」
「…さまだ…。魔族の貴族様だ!お前らっ散れ!」
叫び声を上げて怯えるように魔物達は去っていった。
村人はその瞬間をみていて、喜ぶべき出来事のはずが、喉が渇いて声が出なかった。
白い長髪に顔や腕に赤い後のある美しい青年がたっていた。
「あ…」
セレナは目を丸くした。
青年は振り向くと彼女と目を合わせた。
純白の髪に深紅の瞳。
セレナはその視線に動けなく、声も出ないまま、座り込んでいた。
彼女は記憶からある教典から思い出した。
「は、白髪…瞳…こ、高位魔族…」
セレナは身体を硬くした。
「高位魔族…。人間で言う貴族と同じ地位の魔族。他の魔族より知力、魔法力に優れており、ほとんどの冒険者はこの種族の前に敗れる。
 聖法術と闇魔術として対となる存在である」
エルトは昔本で調べた言葉を思い出した。
リヴェンはその言葉に危険を察し、セレナに男に近寄り剣を向けた。
「なんだ」
「き、貴様、何故この村を襲った!」
男をは向かってくる剣を身体を動かさずに制した。
「…私の命ではない。あの魔…魔物達が動いた事だ。原因は解らん」
言い放つ。
彼の一言一言の度に静けさが増す。
「私は魔族の王ウィンダルの息子。…名はディネイル。今後はこのような事が起こらない用にしておく」
村人は小声で話し出した。
ディネイルと名乗った男はその声さえも聞き取る。
「…魔族の評判とは悪いものだ」
そういい踵を返した。
アイルの森に向かって歩いていく。
「あ、ああの、ディネイル…さん」
セレナは問う。
「わたし…貴方と会ったことありましたか?」
ディネイルは少しだけセレナを見て答える。 「ない。似ている者が人間界にいたのか」
セレナはゆっくりと首を振った。
「貴方を…すごく昔に見たことがある…ような気がして…」
「セレナ、あいつは魔族と言っていただろう。これ以上会話はやめておけ!」
リヴェンに止められ、セレナは口をむすんだ。
森に消えていく美しい青年、ディネイルと名乗る青年を誰も口を開かず、ただただ見送っていた。



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