世界観 登場人物 物語 トップへ戻る 水風船へ戻る




朝。
陽光が針金のようにまぶたの裏に差し込む。天気は晴れ。
そっと目を開ける。
と同時に、ベッドの周りがずぶ濡れになった。
「エルト……」
そこには魔術を唱えたあととに見えるエルトの姿があった。
「朝だよ。今日はちゃんと警備員詰め所に行かなきゃ駄目なんでしょ」
「その前にだな、いい加減に起こし方を改めろ!」
「ディズが1回で起きられたらね」
さらり、と言い放ってエルトは階段を下りていった。
とりあえず替えようの服に着替えて、俺も続いた。

朝食を軽くすませ、外に出る。
エルトは留守番だ。
今日の村は昨日の不思議な一件によってか、少し静まりかえっている。
宿屋まで歩いていくと、セレナが扉の前で手を振っていた。
今日リヴェンは宿に泊まったらしい。
セレナは孤児院に泊まったらしいけれど、俺が寝た後ベッドに入ったし、俺が起きる前に宿屋に皇子を迎えに行った。
軽く挨拶を交わして、リヴェンと再会する。
朝から眠そうな顔をもせず、忙しそうに兵士と連絡を取り合っていた。
彼を呼んで、俺とセレナと皇子、それから一部の兵士はアイル村警備員詰め所に向かった。

「良く来てくださいました、殿下」
そう村長の挨拶と共に俺らは椅子に座った。
「挨拶は良い。それより、昨日の原因について調べようと思う。もし、この大陸が狙われているとしたら国の問題になる」
ごもっともで御座います、と村長はうなずいた。
こう見ると、本当にリヴェンはティルヴィア王国の皇子だと感じられる。
「原因は、解りません。最近に魔物が村に入ってきたこともありませんし…」
俺と同じ警備員の若人が話している。
「…皇子、確か俺がこの村に着く少し前までは襲われたこともあったらしいですよ」
と、一応付け足した。
「む、この村に着いた…ということはここの出身では無いのか?」
「えと、ディズは確か幼いとき…10年ほど前に此村の近くにある森で母が発見いたしました」
セレナがさらに補足する。
「といっても、全く俺は覚えてないんだけどな。記憶が無いって言うの、言いませんでしたっけ?」
俺のよく解らない敬語で皇子に教える。
少し驚いた様子だったが、今は関係ない、と判断したようだ。
「ディズ、その話は後ほど聞かせてくれるか?……つまりは、アイル村はその10年ほど前に襲われたときから、一度も無いのだな」
たまに、俺のほうをちらちら見ながら話している。
後で説明してやろう。
「あ、それではあの不思議な青年はどう関係するのでしょうか?」
皇子はあの青年?と呟いた後、思い出したようにうなずいた。
「あの男はどう見ても高位魔族だった。考えようによっては彼が魔物を呼んだとも考えられるな」
俺の聞いた話だと、魔物を止めたのもその魔族らしい。
つまりは何かの意図があり、魔物を止めたのかもしれないということだ。
その現場に俺はいなかったから、詳しくは解らないのだが。
「魔族が我々を支配しようとしているのではないでしょうか?」
「魔族の反乱が起きているかもしれぬな」
それぞれの意見が飛び交う。
「…わかった。このままでは村が危険だ。城に話を持って行ってみることにする」
村人がどよめく。
俺も驚いた。
まさか、こんな小さな村で起きたことなのに、城に話を持って行くと言っている。
村長も驚いて「殿下、それほど大きな事ではありません。我々でも解決は出来るはずです」
村人もうなずく。
リヴェン皇子はそれを制した。
「こと、によっては王国の危機だ。逆に、我らの城が狙われてもおかしくない日なのだ。ほとんどの兵士は私と共に、この村まで視察に来ている。魔物から見ては、今は絶好のチャンスと言うところだろう」
あ…と俺は呟いた。
「今、この村を狙ったのは、他の目的があったということか…?」
思わず、敬語すら忘れて聞き返してしまった。
皇子は頷いた。
「しばらく、この村に数名の兵士を犯せてもらう。異論はないな?村長殿」
村長もゆっくりと頷いた。


他の、目的…。
俺の薄れた記憶に魔物の姿が浮かぶ。
襲われたのか、襲ったのか。
あの頭痛は……?
俺の、記憶が……?


「「カエッテキナサイ オマエノイバショ」」


<-Back-   NEXT→





------------------------------------------------------
Copyright (C) 2007-2008 東 槻路,All rights reserved.
------------------------------------------------------