あれから数時間がたち、俺は孤児院に帰った。
部屋に入って、しばらく外を眺めている。
もう良い感じにオレンジ色のソラに染まっていた。
いろいろ、思い出す事がある。
記憶のこと、魔物のこと、あいつのこと…。
先程の会議では自分を陥れるような思考回路しか働かなかったけど、果たしてそうなのであろうか。
思い出そう……としても、頭痛が走る。
そう、俺は記憶が無い。
いつからここにいたのか覚えていない。
それだけ、小さい頃からここの世話になっていたと言うことだろうか?
でも、そういう気もしない。
昔は記憶があったのだろうか?俺は二度も記憶を失ったのだろうか?
今まで考えたこともなかった。
俺の居場所があることにだけ、安心していた。
本当では無いけど、家族がいることにも、違和感を感じられなかった。
ふ、と思い出した。
…そういえば、リヴェンにこのことを話すんだっけ。
確か、今日は宿屋の一室を借りて休む…と言っていたな。
深呼吸をゆっくり、ゆっくりする。
俺は重い腰を無理矢理持ち上げて、部屋を出た。
するとエルトとセレナがドアの前に立っていた。
「あ…」
「?どうしたんだ、2人とも」
2人は顔を見合わせて、セレナは照れたように下を向いた。
「え、えっと、なんかディズ、孤児院に帰ってきたときから元気ないかな、って思って」
ああ、心配してくれたのか。
「いや、別に疲れただけだよ。ありがとな」
俺もちょっと照れたように笑った。
「大丈夫なら良いんだけどさ。ディズ、どこに行くの?」
「ああ、リヴェンに俺の記憶の話をしようと思って…」
「駄目!!」
セレナが急に大声を上げた。俺とエルトは驚いて、すこし身構えた。
セレナが大声を出す、ということは本当に滅多にないことだった。
「ど、どうした?」
思わず、声が裏返ってしまった。
セレナがあ、っと声を漏らしたときには、隣の部屋にいた子供たちも顔を覗かせて様子をうかがっていた。
「う、ううん。別に…でも、その…」
エルトが何か訊こうとしてたけど俺は遮った。
「いや、良いんだけどな、別に言わなくたって…」
気まずい。
セレナは完全にうつむいてしまった。
そこに気をつかってか、使わなくてかエルトが話しかけた。
「ねえディズ。ミルクとビーフがないってオカーサンが言ってたよ」
「え、あ…じゃあ、俺買ってくるよ」
うん、とエルトが頷いて、部屋から顔を覗かせる子供たちを部屋に押し込んで入っていった。
じゃ、じゃあわたしも…とセレナは俺が階段を下るときについてきた。
俺とセレナは久しぶりに買い物にでも行くことになった。
うーん…なんか…目線が…。
村人からはちょっとほほえましい目線が俺たちを突き刺す。
俺とセレナはもうそれなりの年ごろだし、まあ、その、そういう風に見えないことも無いかもしれないけど…。 ってあーもー!俺何考えてんだっ!
「ディズ、久しぶりにあそこ、行こうよ」
セレナはそんなこと考えるわけない…か。
寂しいような、嬉しいような、悲しいような…
空返事をして、ミルクとビーフ、それから野菜類をかったあと、俺らは”あそこ”に向かった。