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「姉上!」
「あらあら?リヴェン……?おかえりなさい、早いわね、セレナさんからお手紙届いているわよ〜」
城の3階の奥から二番目の部屋。
白いカーテンと、白いベットの部屋。
「姉上、それどころではありません。あの怪盗マロ…」
「こらこら、リヴェン?お手紙は届いたらすぐ読んで、すぐにお返事を書かなきゃだめでしょう?ミーナお姉さんはいつも言っているのに、リヴェンったらお城に帰ってきたと思ったら、いつも何かの報告が先なんですもの」
「あ、姉上、聞いて下さい。怪盗ま」
「それから、兵士の数が足りないでしょう?何かあったのね?」
「あ、あねう…」
いつもこのような会話が5分くらい。
リヴェン皇子ともあろうものが、ミーナ姫には弱く、押し切れない。

「……姉上、怪盗マロンが再び城下町に現れた、とのことです」
「まぁまぁ、マロンさんが?」
「マロンさんが、ではありません!怪盗マロンは、きっと、姉上のアレを盗みに来るはずです。どうか、しばらく護衛を24時間体制でつけて下さい」
あら……と姫は呟き、ため息をついた。
「言ったはずよ〜?私は、護衛兵はつけないわ。マロンさんがきたら……そのときはそのときよ」
「姉上……」
今度は皇子がため息をついた。


「おーい…さっきの女性の人ー……」
「いないね。ふられディズ」
だから、ふられてないからな、エルト。
兵士達4人に後ろを任せ、俺とエルトと、案内役の若兵士は前を歩いている。
勝手に思いこんで、村を出てきたけど、俺が村を出ただけで、魔物は襲ってこないだろうか?
それ以前に、子供らに何も言わなくて本当に良かったのか…。
「はあ〜……」
「しんきくさいな」
「しんきくさいナ」
なんだよ、2回も同じ事言うなよエルト…。
「君達!危ないッ!」
若兵士が声を荒げたおかげで、前を見た。
間近に迫った炎から火花がとんできていた。
「なっ…!?」
ギリギリのところで、エルトが魔術の壁を作ってくれた。
「……ディズ、しっかりしなよ…魔術師だよ」
「しっかりしなよ、魔術師ダヨ」
炎が止んだ先には、フードを深く被った少年と、座り込んでいる女性がいた。
さっきの人だ。
「へえ、やるね、君。というより、流石、カナ。魔術、苦手なんだよね、ボク」
少年は淡々とした口調で喋る。
「……誰」
エルトは顔を濁した。
自分と同じくらいの背格好の人間が、天才魔術師のエルトと同じ威力の術を使っている…これは珍しいことだ。
座り込んでいる女性に気づいた兵士が、口を開いた。
「そこの君!女性を解放しなさい!」
「そ、そうだぞ!君、魔術なんて使わないで…」
「うるさいよ、ヘイシさんに、白髪サン。ボクは、この、小さな魔術師サンと、話してるんだ」
し、白髪さん!?……しかし、この口調…。
「……僕の真似しないでよ、フードの小さな魔術師さん…」
「あははっ。真似?いいよ、真似っこしよう?…この魔術、まねっこ…しよう!」
そうって、急に構えだした。
この時、俺や兵士が跳び込んで止められなかったのは、既に魔術を掛けられていたからだ。
 うるさいよ、
この言葉で、俺たちは声と行動を止められていた。
見守るしかなかった。

「行くよ、小さな魔術師サン♪うーん、そうだね、山脈だから、地属性が、良いかな?」
「……?」
「地の神らの円舞曲は地響きを呼び起こさん……」
「あ…この詠唱は…っ!」
エルトが状況を理解したときには、数秒が遅かった。
「マッドワルツ!」
フードの少年が声高に叫んだ直後、山脈の土が盛り上がりエルトを高くまで突き上げた。
「……っ…。明快なリズムの……っうわっ」
エルトが状況から逃げようとした詠唱も、地面が持たず、途中で終わってしまった。 「明快なリズムの民族曲よ!マッドアースっ!」
それを見逃さないフードの少年は、エルトの術を逆に唱え、盛り上げた土を打ち砕いた。
「……っ!」
エルトの足下が無くなった。
「っ……エル…ト……っ!!」
凄い速度で、かなり高いところから、エルトが落下してくる。
くそ、身体が動かない…っ。
フードの少年の口元が笑っているのを見えた。
誰か…誰かエルトを…っ


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