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謎の術者を超えたあと、幸運にも山賊に会うこともなく山をこえた。
魔物とは何体か遭遇した。
だが、クリスさんが想像以上の素早さで俺たちの援護をしてくれたため、山を登っているときよりもよっぽど楽だ。
十分一人でも山を越えられそうなほど、強かった。
その間も、エルトはずっと何かを考えているような表情で、俺たちにいつも以上に干渉しようとしなかった。
淡々と魔物をなぎ払う姿はいつも以上に無表情に見えた。

「ついたぞ。ここが王都ティルヴィアだ」
兵士たちの案内で前方を見上げると、城壁で囲まれた大きな建物が見えた。
「で、でけぇ…」
田舎から出てきた俺に言葉で説明しろと言われても難しいほど、大きい。
何が大きいって、縦にも横にも大きい。
城下町の門には馬車が並んでいたり、いろんな人種の人が楽しそうに話している、活気のある町だ。
「中央に見えるのがティルヴィア城。ラスティン様がお住まいになっている。屋上の時計台が有名だ」
あの時計台は俺でも知っている。
時計台の下には鐘が付いていて、現在地、城下町の外でも音が聞こえる。
「入場には許可証がいる。まあ、君達には関係ないことだね」
あ、そうだ。
俺たちは別に観光に来たわけでもなく、皇子に招待されたわけでもなく……何しにきたんだろう。
魔物の目標が俺だ、って勝手に思いこんで、アイル村にいればみんなに迷惑がかかるって思って。
エルトも成り行きで付いてきただけで、ここに何をしにきたんだろう…。
「城下町には図書館や、武器、防具も良いものが揃っている。君達の何か役に立てばいいが…」
「……はい。何から何までええと…ありがとう御座います」
エルトは図書館という単語に反応したけど、それ以外はやっぱり無表情だ。
「エルト、後で図書館行ってやるからな?」
こく、と頷くだけでやっぱり表情を変えない。
そんなに衝撃的だったのか…?
そんな俺たちの気まずい空気を読み取ったのか、兵士は声を掛けてくれた。 「君達には助かったよ。山越えは自分たち兵士でも結構大変なものでね」

「報酬はっ?」

は?ほうしゅう?
「ねぇ兵士さん。報酬、ってもちろんあるわよね」
報酬ってお礼、褒美とかのことだよな。
「だあってー。あたしたちが頑張ったおかげでみーんな無傷でしょ!これってすごい事じゃない?」
「く、クリスさん?」
おねだりを始めたのは勿論エルトではなく、美女、クリスさんだった。
「いえ、感謝はしているが、褒美を与えろとの命令は…」
「えー?すっごい頑張ったのに?女王サマってそんなにケチなの?」
「じ、女王様はケチではない!」
「じゃあ、あたし達のこの頑張り、ぜひとも伝えておいてね〜」
なかば強引に押しつけた気もするが…いいのか?
「わかった…。礼に宿代くらいは出してやる。城下町に入って正面の宿に名前を入れておく」
「あらあら太っ腹ね兵士さん♪ありがとう!」
「一応上にこのことは伝えておくが、褒美の期待はしないように」
「わかってるって♪」
「す、すみません、ありがとうございます」
「いや、いいんだ。ディズ君にエルト君にも世話になったな。感謝する」
そういって兵士達は去っていった。

「さ、行きましょディズ君にエル君♪」
「え、行くってどこに…?」
「あなたたち、その様子じゃ特に行く宛も無いんでしょ?面白そうだから話聞かせてよ」
「えるくん…」
俺とエルトはクリスさんに腕を引っ張られて、にぎやかな城下町に巻き込まれていった。





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