「いらっしゃいー」
クリスさんに案内されて到着した先は、ログハウスみたいな喫茶店だった。
「ごめんねー、あたしおごれないけど、何か頼む?」
「あー…腹減ったかな。エルト、どうする?」
エルトは窓の外をぼーっと見ている。
駄目だコイツ…。
「えーと、イチゴミルクと、あお…」
「あお?」
……危ない危ない。
うっかり青汁を頼むところだった…。
「え、えーと紅茶で…」
「あお…?そう?じゃああたしコーヒーにしよっ」
ふー危ない危ない。
「で、あんたたちはなんで山の向こうからわざわざ越えてきたの?」
「えーと…俺たちは」
説明しようと思って口ごもった。
なぜならば、俺たちがここに来た理由は、俺が勝手に狙われてると思っただけで…。
確定的な理由がない。
エルトも俺も、記憶がないからそれを探しに来た、と言ったらいいのか。
エルトはそうかもしれないが、別に俺は過去なんて気にしたこともない。
「えと、ディズくーん?」
「はっ…あ、えーと、その…」
クリスさんは俺とエルトを交互に見て、首をかしげた。
「何か複雑な事情でもあるのかな?エル君もずーっと黙ってるし…」
何て言ったらいいんだろう。
考えがまとまらないな…。
「あたしも人に言えるような事ないんだけど、話せないこと?無理に訊いてたらゴメンね」
「え、と、そうじゃなんですが、あー…えっと…」
飲み物が運ばれてきた。
エルトはイチゴミルクを見て、いつの間に頼んだの?と訪ね、すぐに手に取った。
「話せないって言うか…話せることがない…ううん…。わからない…?」
「わからない?何でここに来たのかわからないってこと?」
わからない、その表現が一番正しかった。
「何だか、勝手に俺がつっぱしって、思い過ごして、エルトまで連れてきた…みたいな」
「そんなこと無いよ、ディズ」
やっとエルトが口を開いた。
クリスさんも急に口を開いたエルトに驚いたのか、コーヒーに砂糖を混ぜる手を止めた。
「僕が勝手にディズについてきた。僕は記憶を取り戻したいから村を出た」
そうだった。エルトには理由があるんだ。
「僕一人でも良かったけど、この年齢じゃいろいろと不便だから、誰かと一緒じゃないと駄目でしょ」
「エル君、記憶無いの?」
エルトはこくと頷いて、俺をみた。
「ディズも」
「あら、二人揃って記憶喪失?めっずらし〜」
でも俺は、記憶を探すために来たわけじゃない。
「俺は、その…えと…」
エルトもクリスさんも俺の次の言葉を待っているのはわかってるけど、出てこない。
村を守るため?それなら村にいれば守れる。
魔物を倒すため?別に兵士になりに来たわけじゃない。
何しに来たんだ…?
「あーあー、ディズ君ったら悩んじゃって…。ま、若いんだし悩むことは重要だけどねー」
「若いって…クリスさんだって、俺と同じくらいじゃ…」
「あら、ありがと」
といって微笑んだ。