「姉上!姉上!!」
ん?
幾人もの兵士が行き交う中、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
あれは…。
「リヴェン皇子…?」
「姉…ん、なんだ貴様らは。何をしている」
こいつだけには、野宿なんてこの世が果てても言えないぞ。
「…まあそんなことはよい。姫を見なかったか?」
ひめ?
「いや…じゃなくて、いえ、見てませんよ」
「そうか…まったくあの方は連れもいないまま外に出ないでいただきたいと言っているのに…」
そういって皇子は翻して西へ向かおうとした。
そのときに揺れた三つ編みで思い出した。
「あ…皇子!もしかして、ミーナ姫様って、二つに三つ編み作ってる金髪の人ですか?」
ぴくんと振り返った。
「何…?貴様、名前は知っているのに顔は知らなかったのか…?」
呆れかえられた。どうせ俺は田舎もんだよ!
しかし、まさかあの人が…。庶民派なのだろうか?
「南の方に行きました。さっき俺たちがの…。いや、えーと…少し話していました。帰りにも寄ると思います」
「(の……?)…はあ、探すより待った方が早そうだ…。伝令!」
そう声を張り上げると、一人の兵士が皇子に近づいた。
「はっ!」
「姉上の居場所がわかった。私がお連れする。他のものは城に帰って休んでいろ」
「はっ!」
その兵士が戻ると、行き交っていた兵士たちが北へと戻っていった。
今はエルトが寝ているから、皇子と喧嘩することもないだろう。
どかっと皇子がベンチに座り、俺たち男三人で横並んだ。
「皇子、姉上って…」
「む?ああ。ミーナ姫の事だ。義姉だがな」
そうだったのか。俺はてっきり…。
「婚約者かと思ってました」
そういうと、皇子は吹き出した。
「なっ!馬鹿者!姉上は姉上だ!」
暗くてよく見えないが、おそらく赤くなっているだろう。
「皇子、昔アイル村に訪れたときも姫様の自慢話ばかりしていたじゃないですか。それに普通は王様の奥さんが女王様になるんじゃないですか?」
少し間をおいて、皇子は答えた。
「確かにそうだ。私が王位を受け継げば、姉上は姫ではなくなる。姉上が王位を受け継げば、私は皇子ではなくなる」
難しいな。
続けて皇子は話し出した。
「後者の場合、私は元いたであろう場所に返されるだろうな」
「元いた場所?」
頷いて答えた。
「私は養子だ。幼い頃の事は昔のことすぎて、何となくしか覚えていないがな」
そうだったのか。
貴族ってのは俺ら平民とは、単純に生き延びることだけを考える訳じゃなくて、複雑なんだな。
「あー、なぜ貴様にこんなことを話さなければならんのだ!」
「そんなこといったって、無言で待ち続けるのも暇じゃないですか」
本調子に戻った皇子と雑談をしながら待ち続けた。
ふう、ちょっと眠たくなってきたぞ。
そういえば、山を越えるときからずっと眠っていなかった。
姫様が戻ってくるまでちょっとだけ…。
皇子が俺の名を呼ぶのが聞こえたが、目を閉じてしまった。