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港町、ミックル。
セインシグレ神殿に一番近いところにあるため、神殿と関わりのある人々が住んでいる。
神殿は海の向こうにぼんやりと見えた。
ミックルは、商人の町といわれる活気のある町。
ここも田舎の地方だが、俺らの住む、アイル村とは違った、雰囲気があった。
「皇子様がくるぞーっ」
「ね、行ってみよう!」
…すごい騒ぎだ。
「呆れたもんだな…すげぇ盛り上がってるぜ」
全く、あんなのと会って、何が楽しいんだか。
俺たちは港に向かって歩いている。
「…ディズ、さっきから思ってたけど、皇子サマ嫌いなの?どんな人?」
首を傾けなから、エルトがこちらを向いてきた。
どんな人、ね。
「うーん…確実に言えることは、エルトとは気が合わないと思うぜ」
エルトはふーんと言うと、再び首をひねった。
汽笛が聞こえてくる。
船が港に着いたようだ。
気品のある人々が町へ降りてくる。
周りの町人も歓声を挙げている。
「ま、とりあえずセレナを探そうぜ」
「うん」

さらに港の近くによると、さすが皇子の来航だけあって、すごく賑わっていた。
貴族と、兵士。それに神殿の関係者も数人いる。

そして…。

数人の兵に囲まれて、青いマントに、赤いマフラーを身につける、茶色の長い三つ編み男が降りてきた。
あれが…そう、"リヴェン・K・ティルヴィア皇子"だ。
近くの貴族たちと話をしている。
「ほら、あいつ。見えるか?エルト」
と、軽くエルトを持ち上げて見せた。
「うーん…あの、髪が長い人?…別に変な人じゃなさそうだけど?」
どうだか、な。
俺たちは再びセレナを探した。
セレナは金髪で、先生…セレナの母からもらっていた帽子をかぶっているはずだ。
もしかしたら、誕生日に上げた「アレ」も持っているかもしれない。
「3年ぶりだけど、わかるかな」
エルトは、ほんの少しだけ心配そうに辺りを見回している。
「そりゃ、わかるだろ。セレナは家族みたいなもんだからな」
「僕にとっては姉だしね…あ、ねぇあの帽子かぶってる子」
ピンク色の女…じゃなくて、ピンク色の服を基調とした女性が降りてきた。
いろんな人にぶつかりながら、謝りながらも皇子に近づいて行っている。
「あぁ、あれっぽいな…」
「…さえない返事だね」
神官、ねぇ。
もっとこう、堂々としてもいいんじゃねえか?
それでも、セレナは夢に近づいていた。
俺の夢は……。
「…ディズ、皇子サマがこっちに向かって走ってきた」
「…へ?」

皇子は凄いスピードでこっちの方に向かってきた。
さすがの皇子も、人前で猛ダッシュは出来ないのか、超早歩き。
それはいいのか?
俺の目の前で立ち止まり、長い前髪を整えながら、息を切らせている。
うへぇ…。

「…ディズ・ヴァイス!…貴様、昔はよくも私に恥をかかせたな!」
ざわざわと周囲の人が、俺たちの廻りを囲む。
皇子に話しかけられる、明らかに田舎ものは、確かに目立ってしょうがない。
「皇子ー!いかがされましたかー!」
「まってくださいー!」
彼の後を追って、数人の貴族とセレナっぽい人も追いかけてきた。
周りの人の事も考えろっての。
はぁあ…。
めんどくさいことになったな…。
まだ覚えていたのか、やっぱり。

「覚えているか!昔、貴様に森の池にはめられたことのだぞ!」
「…それは皇子サマが勝手に魔物を追って入っただけです」
「う……、むっ昔貴様の孤児院の子供に水をかけられたこともあるのだ!」
「…アレは、皇子が急に食器洗いの邪魔をしたからでしょう…」
「くっ…貴様のせいで、怪盗をとらえられなかったのだ!」
「アナタが、大事なときに、ミーナ様の事を考えてたからでしょう」
まだまだ、あるぞ。
観客もさらに増えてきた。
見せもんじゃねぇよ…ほんとに。
「うむ…む…昔!貴様にアザをつくられたこともあるぞ!」
「それも、貴方がどうしても決闘をしたいと申し出たからです」
ピンクの服を着た女の子がエルトに近づいて、状況を聞いている。
近くで見る、癖のあるブロンドヘアー…やっぱり、セレナだったか。
「はぁ…。それとも、決闘の結果も公に言ってあげましょうか?リヴェン皇子サマ…」
「くっ、お、おいっセレナ!セレナ・クラフト!!本当にディズ・ヴァイスはお前の義兄なのか!」
セレナは今、王族に関係のある仕事をするため、しばらくは皇子の側近になる、とか結構前の手紙で言っていた事を思い出した。
「えっあっ、はい!そうです!も、申し訳ありません…!」
「あ、え…嫌…別にお前に謝ってもらうことは無いのだが…」
「あっあっはい!すす、すみません!…あっ…えっと……」
「…」
「……」
まぁ、なんとかうまくいっているようだ。
この通り、リヴェン皇子も悪いやつじゃあないんだがな…。
「…ねぇ、ディズ」
エルトがぼそっとささやいた。
「ふぅ、どうかしたか?」


「こ い つ が 本当に皇子なの?ありえない」


「なっ、ばっ!こらっエルト!」
「だ、駄目だよ、エルト!」
俺とセレナが同時に止めたが、もう遅かった。
「…そこの貴様っ!私を侮辱するというのか!?」
…やばいぞ。
「…侮辱?別に侮辱しようなんて思ってない。信じられないだけ」
「くっ!貴様…名は?」
「…皇子に名乗る名前なんて、無い」
「この…生意気な子供…だな…っ!」
「…うるさいな、黙ってくれない?僕ら、別に皇子に会いに来た訳じゃないんだけど」
「え、エルトくん、そろそろ…」
セレナも懸命に止めようとする。
「貴様…私は皇子だぞ!ティルヴィア王国の事なら何でも理解しているのだ!」
「…じゃ、僕の質問に答えられたら、認めてあげてもいいよ」
「あぁ!いいだろう!」
…やめた方が良いけど。
「…それじゃ、"ティルヴィア王国の中央にある橋、ヴィックブリッジの主となる素材、そしてその詳細"は?」



時間が止まった。…ような気がした。
町に一時の静けさが訪れる。
しばらくした後、周りにいた町人や貴族達も考え始めたのかざわついた。
もちろん、リヴェン皇子だって、解るはずもない。
「…ヴェ、ヴェーン…だ。確か…城にも使われた…。」
おー、と周囲の数人が声をあげた。
エルトは、珍しく笑いながら(にやりとだけど)、
「ふーん、簡単すぎたかな。
 ヴェーンだけど、正式名称はヴェナンノームズ。
 世界で2番目に固い素材。高級品。ティルヴィア城にも一部使われているけど。
 …ちなみに、セインシグレ神殿の神木もヴェーンだよ。ノームってのは木の精霊って意味だからね。
 あ、…ヴェナンの意味はわかる?」
と一気に説明した。
周りから歓声が巻き起こった。
そんなこと、俺だって知らないし、横にいる勉強家のセレナも知らないはずだ。
エルトは確かに常識がはずれているけれど、魔力と知識の量は豊富だ。
彼と頭で勝負することは、まず無理だ。

「な…そっ…それは…お前は本当に知っているのか?――」
「ヴィントネウル辞典第1章、104頁。確か上から16行目。ヴェ行にあるはずだけど」

さすがの皇子も、唖然としている。
とりあえずはセレナと話をするためにもエルトの口を房がなければ…。
「な、なぁエルト。せっかくセレナと会えたんだしちょっと話でもしようぜ」
「…そうだね」
やっと終わる…と思ったら。
「お前はエルトと言うのか?私も勿論ついて行くぞ!お前との決着はついていない!」
「な、なんだって!?」
「リっリヴェン様!いけませんよ、この後は……あ」
セレナが止めようとした。
しかし、彼女がスケジュール帳を見て、急に固まってしまった。
「ふん、今日はもう夜の晩酌まで自由行動のはず。つまり、私が自由に町を回っても、誰と話しても側近が誰かついていれば良いのだ。
 というわけで、セレナ。私はお前達についていくぞ。」
「嫌、結構ですっ!」
「うん。もう来ないで」
「わわっ私も久しぶりの再会なので…」
3人で否定をしたが、相手は自信過剰皇子。
…これからどうなる事やら。

とりあえず、俺ら3人…いや、4人は町の酒場で落ち着くことにした。



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