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とりあえずエルトとリヴェン皇子を押さえるために機嫌を取るようにした。
はあ、なんでこうめんどくさいことに巻き込まれるんだ俺は。
2人の言い合いが20分くらいたったとき。
町の入り口から悲鳴が聞こえた。
俺はすぐに店の窓から乗り出して、様子をうかがった。
人々が慌てて入り口から港の方向へ走ってくる。
「な、なんだ!どうしたのだ?」
リヴェンも後から付いてきて、窓の向こうを見つめた。
「…かすかに、魔物の声が、聞こえる……」
俺は呟いた。
聴力には自信がある。
俺の呟きに反応したかのように、先程のリヴェンは、『ティルヴィア王後継者』に変わっていた。
「セレナ、お前は兵士全員に伝令!町中の者は既に反応していると思う、アイル村へ移動中の兵に伝えておけ」
「は、はい!」
「ディズ!貴様は警備の仕事をしていたな?共に、現場へ向かえ!」
「あ、ああ」

セレナはすぐに駆け出して行った。
俺は近くにいた兵士から剣を貸してもらった。
その兵士は俺に剣を貸すとき、何で自分が皇子と共に現場へ行かないのだ、という不満の表情を見せた。
確かに、一般人の人間を普通に戦いにいかせるのは、城のキマリではいけないことなのかもしれないが。
だが、リヴェンの指示は正しいだろう。
この地方のことを知るのは、そこにすんでいる者のみだ。

「僕は?」
エルトがぼそっと訊いてきた。
「…子供は家の中にでも隠れていろ」
とリヴェンは言い放った。
「子供、へえ、子供ね」
「何がおかしい!」
ふふん、とエルトが笑った。
言い方は気にくわないかもしれないが、エルトの魔力は凄く強く、正確だ。
連れて行った方がなにかと心強い。
「後ろはこいつにまかせて安心だと思うぜ」
リヴェンは俺とエルトを見比べて苦い顔をしたが、すぐに
「…解った。さっさと行くぞ」
と踵を返し、走り出した。
俺とエルトもそれに続いていった。



入り口付近に行くと、それほど多くはないが魔物がいる。
低いうめき声、甲高い無視の音など。
この地方では滅多に見ない魔物までいた。
兵士も数人戦っていることを音で確認できた。
俺とリヴェンは剣を構えた。
…剣なんて握るのは久しぶりだ。
アイル村は危険がほとんど無いから、武器を持つ人間も少ない。
昔は俺も城の兵士になりたい、なんて行っていたっけ。
リヴェンは近くの敵から素早く切り落としている。
俺も慣れない手つきで後を追う。
背後から、普通では無い、気の流れを感じた。
「爆炎の龍、フェイ。その炎、今しばらく我の力と伏せ!」
エルトは詠唱している。
エルトの力はまだ子供だから、弱い。
だからフェイと言う焔の子龍を召還して操るようにしている。
それを狙うかのように、数匹の魔物がこちらへ速度を上げて近寄ってきた。
「っと…くそ、今エルトにさわらせるかっ!」
やっと剣が手になじんできた。
嬉しい事じゃない。
もう使わない様にしたかったんだけど。
「いくよ、フェイ!!」
詠唱の光が強くなった。
エルトの前を赤いかたまりが浮かぶ。
そして、彼の周りを一週回ると、着物に近い服装、赤い髪に緑の目を持つ龍族の子供が現れた。
「うっわあ〜。なんかさ、大変なことになってるし。これさー、ウチがさ、退治するんだら?」
「…ぶつぶつ言わない。召還獣、戦闘中は僕に従うんだよ」
「わかってるし…いくよっ!!」
フェイは腰に生える翼を動かし、宙を舞った。
天高く上がると魔物の群れの中心部を狙い、炎の渦を呼び出す。
「ウチの必殺技だぜ!炎よ、焼き尽くせ!」
フェイは大きく息を吸い込んだと思うと、赤い塊を口に溜めた。
一瞬の間の後、深紅の焔を直線に呼び出し、魔物を貫く。
魔物は驚く暇もなく焼き尽くされ、兵士達もあっけにとられている。
「僕もいくよ。
 水流に呑まれん躍動曲よ…蠢け、ウォータースウィング!」
エルトの前には大きな滝のようなものが現れ、魔物を巻き込んで流す。
リヴェンは目を丸くしている。
久しぶりだな、エルトの強力な魔術を見たの。
起こされるときはやはり少しは手加減をしているようだ。
「私も負けてはおれん…っはあっ!」
リヴェンも剣士としては優秀だろう。
華麗な剣舞を巻き起こしている。
俺はやっぱり近くにいる敵を切るしか出来ない。
「皇子ー!」
後ろからリヴェンを呼ぶ声が聞こえた。
振り向くと武装した兵士とセレナが見えた。


「はあっ…終わったか?」
兵士の助けも借りて、それほど時間もかからず敵を一掃した。
セレナは聖属性の法術を使って周りの人々を癒している。
そのときだった。
「でぃっディズっ!」
鳴き声の混じる子供の声が聞こえた。





そして、災厄は奏でられた。


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